「ごちそうさま」
「ごちそうさまでした!」

辰也の部屋で、一緒に作ったミートソースを完食する。
我ながらなかなかいい出来だった。
これなら一人暮らしでも頑張れるだろう。
もちろん大変ではあるだろうけど。

「ケーキ持ってくるよ。ちょっと待ってて?」
「あ、私も行くよ。お皿もいるでしょ?」

そう言って辰也と一緒に立ち上がる。
ミートソースの食器も持っていきたいし、一緒の方が効率がいいだろう。

「じゃ、行こうか」
「うん」


台所の冷蔵庫から、辰也は丁寧に慎重にケーキを取り出す。
お母さんにも手伝ってもらったし、そんなにひどい出来ではないはずだけど、やはり緊張してしまう。

「あっ!」
「?」

辰也は突然大声を出すと、深刻な顔で周りをきょろきょろ見始める。

「どうしたの?」
「写真撮ってなかった…切る前に撮らなくちゃ」

深刻な顔だから何かと思ったら、辰也から出てきた言葉はそんなことだった。

「そんなことって今思ったろ。大事なことだよ」
「そ、そう?」
「そうだよ。ちゃんと思い出を形にして残さないと」

辰也はそう言って嬉しそうに目尻を下げながら自室へ向かう。
ここまで喜んでくれたなら、作った甲斐もあると言うものだ。

「あ、ごめん。ドア開けてくれる?」
「うん」

辰也は丁寧にケーキを持っているから、両手がふさがってしまっている。
辰也の部屋のドアを開けると、辰也はゆっくりと部屋に入って、そっとテーブルにケーキを置いた。

「写真写真」

辰也は嬉しそうに机の上の携帯を手に取った。
カメラを起動して、ケーキの前に構える。

「…よし」
「あ、私も」

記念だし、私も携帯で写真を撮る。
画面越しに見るケーキは、きちんと円にもなっているし、悪くない出来だ。
一人で作ったなら自慢もできるけど、あくまでお母さんとの合作だから胸に秘めておくけど。

「はあ…食べるのもったいないな」

辰也はケーキを見ながらそう言った。
辰也はいつもこうだ。
そんなに気に入ってくれるのは嬉しいと思う。

「もう、食べよ」
「うん…が作ってくれたんだから食べないと。…あ、でももう一枚」

辰也は角度を変えてもう一度写真を撮る。
その様子を見ていると、自然と笑顔になる。
頑張って作ってよかったと、そう思える。

「じゃあ…切るよ」
「うん」
「……」

辰也はナイフを持ったまま固まってしまう。
どうしたのだろうか。

「辰也?」
「やっぱり切れない…、切ってくれる?」

辰也は眉を下げて悲しそうな顔でそう言ってくる。
あまりに悲壮な顔をしているものだから、面白くて吹き出してしまった。

「ひどいな、本気なんだけど」
「ふふ、ごめん。大丈夫だよ、また作るし…」
「うん…わかってるんだけど、自分じゃなかなか」

辰也ははあ、とため息を吐きながら私にナイフを渡す。
そっとケーキを半分に切った。
そしてもう一度ナイフを入れて四等分にする。
小さいケーキなので、四等分で十分だろう。

「はい、辰也」
「ありがとう」

辰也の前のお皿に1ピースケーキを置く。
そして、自分の分も。

「いただきます」
「いただきます」

二人でそう言って、ケーキにフォークを入れる。
一口食べると、口内に生クリームの甘みが広がる。
大丈夫、ちゃんとおいしい出来になっている。
ドキドキしながら辰也を見ると、嬉しそうな顔でもう一口食べていた。

「おいしい。すごいなは。なんでもできる」
「で、できないよ…ケーキだってお母さんに手伝ってもらったし」
「そんなことないよ。料理もおいしいし、お菓子もおいしい。誕生日にはマフラー編んでくれただろ?なんでもできてるじゃないか」

辰也は指折り数えながらそう言ってくる。
確かに料理もお菓子作りも編み物も今はできるようになった。
だけどまだまだ下手な部類だと思うし、「なんでもできる」とまで言われると恥ずかしい。

「なんでもってほどじゃないけど…でも、いろいろできるようになったのは辰也のおかげだよ」

ただ、料理やお菓子作り、編み物をやろうと思ったのは辰也がいたからだ。
これらのことは全部、辰也に喜んでもらいたいと思って始めたことだ。
きっと辰也がいなければ、どれもできないまま今を過ごしていただろう。

「辰也に喜んでもらいたいって思って…だから料理とか編み物とかやろうと思ったの。だから、辰也のおかげ」

そう言って笑いかけると、辰也も嬉しそうに笑った。
そして私の頬を撫でる。

「そっか。嬉しいな」
「ふふ」
「…オレも、がいたから」

辰也は目を瞑り、噛みしめるような話し方をする。

がいたから、いろんなことを頑張れたよ」

辰也は優しく私を抱き寄せる。
優しくて温かい腕だ。

「辰也」
がいたから…今こうやって笑っていられる」

辰也の顔を見上げると、穏やかな笑顔を見せてくれた。
きっとそれは、辰也の本心なのだろう。

「そっか」
「うん」

ぎゅっと辰也の手を握る。
温かくて大きな手。
私の大好きな手だ。

「じゃ、私たち、お互いがいてよかったね」
「そうだね」

私は辰也がいたからいろんなことができるようになって、辰也は私がいたからいろんなことを頑張れた。
とても素敵なことだなと、言葉にして思う。






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15.09.18