「ケーキ、おいしかった…まだ食べれそう」

辰也は嬉しそうな表情でそう言った。
結局辰也だけでケーキの4分の3を平らげてしまった。
私と辰也それぞれ4分の1を食べて、もう半分は冷蔵庫行きかなと思っていたのだけど、こう見えて辰也は大食漢、ケーキもぺろりと食べてしまった。

「ふふ、ありがとう。次はもっと大きいのにしようか」
「うん」

辰也は私のおでこにキスをする。
ここまで喜んでくれるとは、ケーキを作ることにして本当に良かった。
お母さんに感謝しなくては。

、プレゼントがあるんだ」

辰也はそう言うと、戸棚の中からかわいらしい包みを取り出す。

「わ、ありがとう。開けていい?」
「もちろん」

ドキドキしながらラッピングを開けると、そこに入っていたのは淡いピンク色のマフラーだった。
手に取ると、ふわりと温かくて優しい手触りだ。

「マフラーだ…ありがとう」
、古くなってきたって言ってただろ?」
「あ…覚えててくれたの?」
「もちろん」

先日、「マフラーがちょっと古くなってきた」と辰也に零したことがある。
それを覚えていてくれたのか。

「ありがとう、大切に使うね」
「うん」
「私もプレゼントあるの」

そう言って私は鞄から辰也のプレゼントを取り出す。
ドキドキしながら、辰也に渡した。

「ありがとう」

辰也は嬉しそうな表情でそう言いながら、ラッピングを解いていく。

「これ…」
「え、えっと…バスケットボールのワックス…」

マフラーは誕生日に渡したし、手袋は去年のクリスマスに渡した。
防寒具系がダメになると、これしか思いつかなかった。
辰也の大好きなバスケットボール用品。
バッシュになるとさすがに高いし、使い心地もあるだろうからプレゼントするわけにはいかない。
私に手が届く金額で、辰也が喜びそうなバスケ用品と言ったらこれだった。

「あ、あとタオルもあって」
「……」

辰也はじっと私のプレゼントを見つめている。
やっぱり恋人にあげるものとしては色気がなさすぎただろうか。


「は、はい」
「嬉しい…ありがとう」

辰也はぎゅっと私を抱きしめる。
喜んでくれたことがわかって、私はほっと安堵した。

「辰也」
「さすがだ。オレの事よくわかってる」
「ほ、本当?」
「うん」

辰也は私の頬を摺り寄せてくる。
これは一番喜んでいるときの仕草だ。

「もっとロマンチックなプレゼントのほうがよかったかなって思ったけど…」
「そんなことない。オレがバスケ好きなのわかってプレゼントしてくれたんだろ?嬉しいよ」

辰也はついばむように、何度も何度もキスをしてくれる。
喜んでくれたのはうれしいけど、まさかここまでとは。

、嬉しいよ。本当に嬉しい。大好きだよ」
「私も大好き」

今度は私からキスをする。
そうしたら、辰也は表情をより一層明るいものに変えた。


「きゃっ!」

辰也は笑顔のまま私をひょいと抱き上げると、ベッドに寝転がらせる。
そのまま私の上に乗って、深く甘いキスをする。
これは、このままあっちのコースだ。

「た、辰也」


辰也は色気のある声で私の名前を呼ぶ。
その声に一瞬にして飲み込まれそうになる。

「辰也…」

クリスマスだし、そういうことになるだろうということは辰也と一年以上付き合ってきたのだからわかってる。
だから、そのまま受け入れようとしたそのとき。

『行ってらっしゃい。楽しんできてね』

今日見送ってくれたお母さんの顔と言葉をはっと思い出してしまった。
急激に顔がカーッと赤くなっていく。

「た、辰也!ちょっと待って!」
「?」

慌てて辰也の肩を押すと、辰也は不思議そうな顔で首を傾げた。
こんないい雰囲気の中でこうされたら当然だろう。

「あ、あの…」
「どうしたの?何かあった?」

辰也は小さく気遣うような声でそう聞いてくる。

お母さんの顔が思い浮かんでしまうと、どうにもそういうことをするのは気が引けてしまう。
きっとお母さんは私を信頼して今日送り出してくれたのだろう。
事に及ぶのはなんだか後ろめたいと思ってしまうのだ。

、どうかした?生理じゃないよね?」
「え、あ、うん」

なんで確信的な聞き方なんだというツッコミは置いておく。
辰也に何といえばいいのだろう。
そのまま「お母さんが」というのは少し気が引ける。

「体調悪い?どこか痛いとか…」
「そ、そうじゃなくて…」
「無理しないで」

辰也はそう言うと私の横に寝ころんだ。
そのまま、私の背中を優しく撫でる。

「いいんだ、嫌なら嫌で。そういう気分じゃないときもあるだろうし…まあオレはないけど」

「ないんだ」と思ったけど、そのツッコミは再び胸に秘める。

「辰也」
「無理させたくはないからさ」

辰也は眉を下げて、私を抱き寄せる。
胸の奥が、ぎゅっと掴まれたような感覚に陥る。

辰也は優しい人だ。
いつも私のことを気遣って、私の考えを優先してくれる。
こうやって優しくされると、余計にその思いが強くなる。

「辰也、あの」
?」
「ごめん、あの…大丈夫だから」

恐る恐る、辰也の手を握りながらそう言う。
「待って」なんて言ったくせに都合のいいことばかり言っている自覚はある。
だけど、伝えなくては。

「さっきはちょっと…ああ言ったけど大丈夫」
「無理しないで、
「む、無理じゃなくて…私もその、し…」
「?」
「…し、したいっていうか…その」

もぞもぞと呟くと、辰也は目を丸くして固まってしまう。
おーい、と目の前で手を振ってみても無反応だ。

「た、辰也?」

「っ!?」

大丈夫だろうか、そう思ったら辰也は体を起こして私の上に跨る。

、可愛い」
「えっと、辰也」
「どこでこんな焦らし方覚えたの」
「そ、そういうわけじゃ!ん…っ」

別に焦らそうとか思ったわけではないのだけど、辰也はもう聞く耳をもたない。
キラキラした表情で、私にキスをしてくる。

「た、辰也」
、好きだよ」

辰也は低い声で、私の耳元でそう囁く。
そう言われると、私はいつも何も言えなくなってしまう。

「私も、好き」

お母さんに悪いと思う気持ちはまだある。
だけど、それ以上に辰也のことを好きだと思ってしまった。
好きな人に、もっと触れたいと思ってしまったのだ。

辰也は私の服に指を掛ける。
そんな動作一つ一つが、愛おしい。






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15.09.18