「ありがとうございました」

そう言って保健室を後にする。
うっかりボールかごで手を切ってしまった。
まあ、消毒してもらったし、大丈夫だろう。

「……」

はもう来ているだろうか。
…よりによって、とあいつが隣の席か。
心の中がざわつくのを感じる。

「あ」
「!」

体育館に向かって歩いていると、考えていた当人が現れる。
中山だ。

「…」

中山のことは好きにはなれない。
中山自身がどうとかではない。
ただ、最初に会ったとき。
を見る目が違うな、と。
こいつはのことが好きなんだと、すぐにわかった。
はまったく気付いていないようだけど。
中山は、オレが気付いていることに気付いているだろう。

「…

中山が突然の名前を出す。
…何か、あったんだろうか。

「…と、付き合ってるんだって?」

中山は苦虫を踏みつぶしたような顔で言う。
オレは間髪入れずに答えた。

「そうだよ」
「…」

そう答えると、予想外に中山は落ち込まない。
睨みつけるような瞳だ。

「…オレは、オレの方がのこと知ってる」
「…」
「中学のときから、ずっと見てきた。3ヶ月とか、4ヶ月の付き合いじゃない」
「!」

思わぬ言葉に、目を丸くする。
中山の、宣戦布告だ。

「…だから?」
「…」
「それでも、が選んだのは、オレだよ」

低い声でそう告げる。
半ば、自分に言い聞かせるように。

「…だからって、諦めない」

中山はそう言うと、部室棟のほうへ走って行った。


「……」


いろんな思いが去来する。
はよく「辰也が心配するようなことはない」なんて言うけど、こんな近くに、を好きだと言う男がいるじゃないか。
しかも、中学からの同級生だ。

…中山と仲がいいのは知っていたけど、まさか中学からの知り合いだったとは。
また心がざわつくのを感じる。
オレの知らない、だ。
少し前に中学の頃の話を聞いたけど、きっとそれだけじゃわからないことがたくさんあるだろう。
オレの知らない、でも、中山は知っている、

過去にまで妬いたって仕方ない。
そんなことわかってる。
でも、止められないんだ。





「…中山ってどんなやつ?」

帰り道、そう聞いてみるとは知っていることを羅列する。

「仲良いの?」
「?ふつうかな」

はごく自然な顔でそう言う。
…うん。そうだろう。
きっとにとっては「仲のいい男友達」なんだろう。

「私が好きなのは辰也だけだよ」

は少し照れながら、優しい声でそう言ってくれる。
わかってる。わかってるよ。
こうやって、オレと手をつないでいるときに、他の男を想っているはずがない。
はそんな子じゃないと、わかってるよ。

でも、止められないんだ。

「…っ」

キスをすると、の顔は真っ赤になった。

「こ、こういうとこじゃダメだって!」

はいつもそう言う。
…恥ずかしいだけだって、わかってるよ。
だけど、こう思わずにはいられない。


誰に見られたら、困るの?






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13.10.25