「あら、どこか行くの?」

元旦。
リビングへ部屋着ではなくよそ行きの服を着てきた私を見て母親がそう言う。

「うん。初詣」
「あらら、お節は?」
「食べてから行くよ。頂きます!」

用意してあったお節を食べる。
一年の始まりだなあ。

「はい、お雑煮」
「ありがと」
「せっかく初詣行くなら、晴れ着着て行ったら?」
「え?」
「古いやつだけど、私が昔着てたやつあるわよ。きっと着て行ったら喜ぶわよ〜?」

お母さんの言葉に赤くなる。
多分、お母さんは私が誰と行くかわかってるんだろう。

…晴れ着かあ…。

「…で、でも、時間掛かるし」
「じゃあちゃっちゃと食べちゃいなさい!出してくるから」
「あ」

お母さんはとんとんと階段を上って行ってしまう。
ど、どうしよう。もう時間が…。

…でも、辰也、喜んでくれる、よね。


『もしもし、?』
「あ、辰也。あの、まだ家出てないよね?」
『うん』
「よかった。少し待ち合わせ遅くできないかな?」
『いいよ。何かあった?』
「え、っと、寝坊しちゃって…」
『珍しいね。でもお正月だし、のんびりしてなよ』
「うん、ごめんね。また連絡するから」
『わかった。またあとでね』

辰也との電話を切る。
…どんな顔してくれるかな。
浴衣も嬉しそうにしてくれたし、きっと、すごく喜んでくれるはず。
うん、頑張ろう!






お母さんに着つけてもらって、準備万端。
辰也にも連絡したし、そろそろ来るはず。

「じゃ、じゃあ行ってきます」
「行ってらっしゃーい」

ドキドキしながら家を出る。
辰也がそこまで来ている。

「辰也!」

駆け寄りたいけど、着物なのでそうはいかない。
辰也は目を丸くしている。

「辰也、あの」
「……」
「…へ、変?」

辰也は何も言わない。
ど、どうしよう。古いのだしやっぱ変かな…。

「わっ!」

辰也は何も言わず私を抱きしめてくる。
く、苦しい。

「た、辰也」
「可愛い。可愛い…でも綺麗だ」
「…辰也…」
「どうしよう、
「?」
「誰にも見せたくない」

辰也が真剣な声でそう言うから、思わず笑ってしまった。

「ひどいな、本気なんだけど」
「ふふ、ごめん。でも行こう?お願いしたいことあるし」
「…うん」

辰也は渋い顔でうなずく。
…もう。

「…でもやっぱり…」
「もう、辰也!」
「…はい」

行きたくなさそうな辰也の手を引く。
辰也はようやく歩き出す。

、綺麗だ」
「ありがとう」
「どうしよう、本当、どうにかなりそうだ」
「そ、そんなに?」
「本気だよ」

辰也は私にキスをする。
…よかった。すごく喜んでくれている。

「じゃ、お参りね」
「うん」

神社について、境内に向かう。
今年お願いすることは決まっている。

「……」

バスケ部のみんなが怪我しませんように。
みんな健康で幸せに過ごせますように。
…ずっと、辰也と一緒にいられますように。

…欲張り過ぎかな?

、長かったね。なにお願いしたの?」

お参りが終わり、辰也と一緒に神社を後にする。
さっきお願いしたことを辰也に告げた。

「そっか。もったいないことしたな」
「?」
「オレもとずっと一緒にいられますようにってお願いしたから。違うことにしておけばよかったかな…」
「ふふ。でも、二人でお願いしたから、きっと絶対大丈夫だよ」
「うん」
「他、なにお願いする気だったの?」
「ん?がもっと積極的になってくれますようにって」

辰也が顔色一つ変えずにそう言うので、思わず小突いた。

「ば、バカ!」
「ええー…結構本気なんだけど」
「バカ!バカバカ!」
「初心なも可愛いけど、もう少しだけね」
「…っ!バカ!知らない!」

赤くなった顔でそう言えば、辰也は楽しそうに笑う。
…もう!

「ごめんごめん」
「バカ!」
「……」
「?」

辰也は突然真剣な顔になる。
どうしたんだろう。

「辰也?」
「…変わらないなあと思って」
「?」
「去年と。今年も宜しくね」
「…うん」
「あ、そういえば言ってなかった」
「?」
「あけましておめでとう」
「あ」

そう言えば、ちゃんと面と向かって言ってなかった。

「辰也、あけましておめでとう」
「うん。あ、そうだ。写真撮っていい?」
「え?」
「せっかく普段しない格好だしさ」

辰也はポケットから携帯を取り出した。
写真かあ。
ちょっと恥ずかしいけど、そう言ってくれるのは嬉しい。

「だったら二人で撮ろうよ」
「ええー…」
「『えー』って…」
「じゃあ、一人のと、二人の写真で撮ろう」

辰也は笑って、私から少し離れて携帯を構える。
辰也に写真を撮られるのは、結構恥ずかしい。

「はい、笑って」
「う、うん」

ドキドキしながら笑う。
着物だから、ピースしたりはせず両手は前で合わせた。

「…はい、撮れた」

撮ってもらった写真を見る。
…うん、大丈夫。変な顔はしていない。

「可愛いよ」
「…ありがと」

辰也はいつもそう言ってくれる。
自分の好きな人が、私を可愛いと言ってくれる。
少し恥ずかしいけど、とても嬉しい。

「あ、すみません。写真撮ってもらっていいですか?」

近くにいる家族連れに携帯を渡して、撮影をお願いする。
二人で並ぶと、辰也が私の手を握った。

「はい、チーズ」

そう言われて、笑う。
やっぱり、一人より二人で撮る方が好きだ。

「ありがとうございます」
「いいえ」

二人で撮ってくれたお父さんと思しき人にお礼を言って、二人で写真を見る。
写真の中の繋がれた手を見ると、顔が赤くなる。

は可愛いな」
「もう、また」
「だって可愛いからさ」

辰也は私の頬を撫でる。

「…ね、辰也。今年も、たくさん一緒にいようね」
「もちろん」

また辰也と手を繋ぐ。
辰也と過ごした一年が終わって、辰也と過ごす一年が始まる。
今年も、ずっと、一緒にいようね。















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14.02.21