「あれ、劉」


男性物の洋品店。
中で会計を済ませていると、一際背の高い人が入ってくる。
劉だ。

「氷室に何か買うアルか」
「うん。もうすぐ誕生日だから」

氷室へのプレゼントを買うため、部活帰りにやってきた。
散々迷ったけど、これで最終決定だ。

「ふーん。やっぱりラブラブアル」
「え?」
「今日敦が言ってたアル。『最近室ちんとちん距離あいてるみたい〜今日も一緒に帰らないし〜やばいんじゃない?』って」
「……」

…敦は本当、こういうところ妙に鋭いと言うかなんと言うか…。
あと、劉の物まねが妙にうまい…。

「…今日はプレゼント買うから、一人で帰ったんだよ」
「うん。仲良きことは美しきことアル」
「そんな言葉、よく知ってるね?」
「福井が教えてくれたアル」
「福井先輩が?」

福井先輩もたまにはまともなこと教えるんだなと感心する。
…うん、仲は良い。きっと。

「…じゃあ、私は帰るけど、劉は買い物?」
「そうアル。また明日アル」
「うん、バイバイ」

そう言ってお店を出て、プレゼントの入った袋をギュッと抱きしめた。
…喜んでくれると、いいな。

「…!」

そんなことを考えていると、人ごみの中、劉ほどではないけど頭一つ出た男の人が。
私は慌てて袋を鞄の中に入れた。

?」
「ひ、氷室…」

ぎ、ギリギリセーフ!
どうにか氷室にプレゼントの袋は見られないで済んだ。

、買い物ってこの辺で?」
「う、うん。氷室は?」
「オレはちょっと暇だからうろうろしてたんだ」
「そっか」

鞄を後ろ手で持って、ドキドキしながら話す。
…バレてないかな。
いや、誕生日直前に「一人で買い物したいから」なんて言ったんだし、氷室へのプレゼントを買っているのはバレバレだと思うんだけど…物はバレるわけにはいかない。

「あ、私、もう帰るけど…」
「じゃあ、一緒に帰ろうか」
「うん」

そう言って氷室は私の手を取る。
…うん。仲は良いよ。変わらない。

けど、敦の言う通り、どこか距離があいているような。

「…」

いつも氷室は、人前だろうとなんだろうと、何かというと迫って来ると言うか…。
こっちが戸惑うようなことをしてきたのに、今はこうやって手を繋いで帰るだけ。

…人前でされるのは、困るから、いいけど…。



「…じゃあ、また明日ね」
「うん」

私の家まで来て、氷室は私の手を離す。
そしてそのまま、自分の家まで帰って行く。

…ほら、やっぱり。

「…はあ…」

前は、バイバイする時キスをしてくれたのに。

「……」

バカみたい。
人前でされるのは困るってさんざん言ったのに。
いざ、されないと、寂しいなんて。
第一、氷室がそういうことをしなくなったのは、私が原因なのに。

「…」

自分で自分の唇をなぞってみる。
…寂しい、な。





 
13.05.24