11月後半、週の終わりの金曜日。 WCの出場も決まり、(個人的に)一大イベントだった氷室の誕生日も無事お祝いできた。 期末テストまで大きなイベントのないこの頃。 小さなイベントが本日行われる。 「7番…」 教卓で引いたくじと黒板に書かれた座席表を照らしあわせる。 今日のホームルームは席替え。 小さいけれど、一喜一憂するイベントだ。 「、どこだったー?」 「…一番前」 「わー、運ないねえ」 「ね…」 溜め息を吐きながら、鞄を持って廊下から二列目、一番前の席に移動する。 「あ、中山」 「」 廊下側の列の隣は、中学が一緒の中山だ。 「また隣だね」 「うん」 クラスが一緒になることが多くて、席が隣になったことも少なくない。 「私たち、この席だと来週週番だよね」 「そうだな。また、よろしく」 「うん」 そんな話をしている内に、クラス全員席に着いたようだ。 …辰也は…、ああ、やっぱり一番後ろ。 バスケ部の中だと2mが3人もいるせいで目立たないけど、辰也は相当背が高い。 そりゃ、一番後ろにされるよね…。 「おーい、お前ら静かにしろー」 担任の先生がパンパンと手を叩いてみんなの注目を集める。 「それじゃあ、この席で決定な。つーことで、中山と座席表作ってくれ」 「えっ!」 思わぬ言葉に、声を上げる。 しゅ、週番は来週からなのに…! 「運なかったなー、その席になって」 「…はーい」 先生はちょっといたずらっぽく笑う。 私は溜め息を吐くけど、隣の中山は心なしかきらきらした顔をしている。 「どうしたの?」 「え?」 「なんか、うれしそうだよ」 「そ、そう?」 「ふふ、変なの」 * 連絡事項も終わり、ホームルームは終了。 「さっさと終わらせちゃおう!」 そう言って私は中山と机をくっつけた。 「」 「あ、辰也。私ちょっと部活遅れちゃうから、みんなによろしくね。監督と岡村先輩にはもう連絡したから」 「わかった。がんばってね」 「うん、ありがとう」 そう言って教室を出る辰也を見送った。 席について、みんなから回収したくじの番号を見ながら座席表を作っていく。 「早く終わらせちゃおうね。中山も部活あるでしょ?」 「あるけど、オレのほうは今あんまり練習できないから」 「そっか、外の部活はこの時期大変だよね」 中山はテニス部の部長だ。 今外はほとんど雪で覆われているから、外での練習はほとんどできず、基礎練や少ない屋内コートで練習しているらしい。 「…さ」 「ん?」 中山は作業する手を止めて、少し低い声で話し出す。 真剣な話だろうか。そう思って私も作業の手を止めて耳を傾けた。 「…氷室と付き合ってるって、本当?」 「えっ!?」 思わぬ言葉に、ペンを持つ手が強ばる。 ま、まさかそんな話だとは…。 「ほ、本当だけど…」 「…やっぱそうなんだ。いやほら、仲良いし、そうなのかなって」 「う、うん…」 よく女の子には「氷室君と付き合ってるの?」なんて聞かれるけど…。 男子に聞かれるのは初めてで、少しドキドキする。 「バスケ部のマネージャー始めたのも、部に彼氏いるから?」 「いや、それは…夏期講習のときにマネージャーいなくて大変だから手伝ってくれって、たまたま誘われて。最初は夏休みだけの話だったんだけど、楽しかったからそのままやってるの」 「あ、そうなんだ…」 そううなずくと、中山は小さな溜め息を吐いた。 「どうしたの?溜め息なんて」 「えっ、あ…いや、うちもマネージャーいないから大変なんだよな、って思って」 「そうなの?」 「バスケ部みたいに大所帯じゃないからどうにかなってるけど」 「そうだったんだ…」 中山は俯いたまま、視線を外してぽつりと呟く。 「…がマネージャーなってくれたら、うれしかったんだけど」 「えっ?」 「あ、いや…。バスケ部の連中から話聞くとさ、評判いいから」 「そうなの?」 そう言われると、自然と顔が綻んでしまう。 …みんなの役に立てているようで、よかった。 「…あ、続き、やらなきゃ」 「そうだな」 すっかり話し込んでしまって、手が止まってしまった。 さっさと終わらせてしまおう。 「じゃあ、また来週ね」 「ああ、部活頑張って」 「中山も」 そう言って中山と別れて体育館に向かう。 みんな、大丈夫かな。 さっきの中山の「評判がいい」という話を思い出して、自然と早足になる。 今日も頑張ろう。 「すみません、遅れました」 そう言って体育館に入る。 ちょうど休憩中のようで、みんな水分補給したり壁にもたれて体を休めたりしている。 「あれ?」 そんな中に、辰也がいない。 「ああ、氷室?あいつ保健室」 「え!?」 「大したことねーよ。さっきボールかごで手のひらちょっと切っちまって。ちょっと血出ただけだけど、かご錆てっから、消毒しにいったんだよ」 「あ、そうなんですか」 ほっと胸を撫で下ろす。 保健室なんて言うから、大きい怪我か、体調悪くなったのかと思った。 「よし、そろそろ休憩終わるぞー。、よろしくな」 「はい!」 みんなの休憩も終わるし、私も仕事を始めよう。 * 「お疲れ様でしたー」 今日の練習も無事終了。 今日は学校側の都合で自主練は禁止。即解散だ。 ちゃっちゃと帰り支度を済ませて、辰也と一緒に帰る。 「怪我、大丈夫?」 「うん。大したことないよ」 部活中は辰也と話すチャンスがなく、気になっていた怪我のことを聞く。 左手に絆創膏が貼ってある。 「…、中山ってどんな奴?」 「中山?」 辰也がそんなこと聞くの珍しいなと思いつつ、知ってることを答える。 「中学から一緒で、何回か同じクラスで…真面目で頭もいいからよくクラス委員とかやってて。あ、テニスもうまくてね。今部長やってるよ」 「…仲いいの?」 「?うん、まあ」 仲悪くはないけど、とてもいいというわけでもない。 中学の時は一番仲のいい男子だったと思うけど、今はバスケ部の人たちのほうが仲がいいと思う。 「珍しいね、辰也がこういうこと聞くの」 「ああ、さっき保健室で中山に会って。それでと中学一緒だって話を聞いてさ」 「保健室?」 中山、元気そうだったけど保健室に行ったのか。 大丈夫かな。 「」 「?」 名前を呼ばれて顔を上げると、不意にキスを落とされる。 「た、辰也」 「……」 「ま、待った!」 もう一度キスされそうになって、辰也の唇を手で抑える。 「こういうとこじゃダメだってば!」 「…」 そう言うと辰也は拗ねたような顔をする。 だけど、いつもとどこか様子が違う。 どうしたんだろう…。 「…あ」 もしかして。 思い当たる節を言ってみる。 「…ヤキモチ?」 そう言うと、辰也は目を丸くする。 図星のようだ。ちょっとうれしい。 「…私が好きなのは辰也だけだよ」 「うん」 辰也は少し顔を綻ばせる。 ヤキモチなんて、妬く必要、どこにもないのに。 「」 「うん」 「うち来なよ。キスがしたい」 そうストレートに言われると、顔が赤くなる。 「キスだけで赤くなって、どうするの?」 「う…」 「もっといろんなことしたいんだけど」 そう言われると、本格的に赤くなる。 「も、もう!バカ!」 「ははっ」 辰也は笑って私の頭を撫でる。 も、もう…。 「で、来るの?それとも、やめる?」 「…行く、けど…」 そう聞かれ、視線をはずして答える。 …そりゃ、私だって、キスしたいし…。 「じゃあ、行こう」 辰也は私の手を引いて、自分の家に向かう。 笑っているけど、どこか、元気がなく見えるのは気のせいだろうか。 ←名前を呼んで → 13.08.16 |