月曜日、朝練が終わり辰也と一緒に教室へ。 その途中、職員室で日誌を取ってきた。 「そっか。週番か」 「うん」 週番の仕事は日誌を書くことと黒板を消すこと。 あと、授業でノートを集めたりするとき先生に持っていったり。そのぐらいだ。 でも、金曜日みたいにたまに先生から雑用を頼まれたりするのが面倒なところ…。 * 「おはよう」 「あ、中山。おはよう」 自分の席で筆記用具を出していると、中山がやってくる。 「あ、日誌持ってきてくれたんだ」 「うん、朝練あったから。体育館からだと職員室通り道だし」 「ありがと」 日誌を広げる。 今日の日付と、時間割を書いておこう。 放課後まとめてやってたら部活に遅れちゃう。 「あ、オレやるよ」 「いいよ、大丈夫。中山は黒板消すのやってくれる?」 黒板の高いところでも一応届くけど、ちょっとつらい。 そこは男子にやってもらいたいところ。 「うん、わかった」 「お願いね」 * 「あ」 二時間目の化学の授業の直前、中山が小さく声を上げる。 「どうしたの?」 「教科書、家に忘れたみたいだ」 「そうなの?」 そんな話をしている間にチャイムが鳴る。 もうほかのクラスにも借りに行けない。 「私の見せるよ」 「本当?悪いな」 そう言って私の机と中山のをくっつける。 * 「、化学苦手?」 「え?」 化学の授業が終わり、机を元に戻していると、中山がそう言ってきた。 「授業中、しかめっ面してたから」 「え!?うそ!」 「本当」 思わず手で顔を覆う。 た、確かに化学苦手だけど…。 「中学のときはそんなでもなかったよね?」 「高校レベルの理科は私にはハードルが高いです…」 「はは。でも頭いいし、コツ掴めばすぐできるようになるんじゃない?今だって化学苦手って言っても平均以上取ってるだろ?」 「べ、別に頭よくないよ」 「そう?でもこの間の中間も順位上がってたじゃないか」 「あれは…」 あれは別に、その。 成績が上がったのは英語とか現代文とか古典とか。 英語は辰也に教えてもらったおかげで。 現代文や古典は辰也に教えなくちゃと復習したりしていたからであって…。 つまり、私が頑張ったから、というより、辰也のおかげというか。 「、どうしたの?」 「えっ?あ、いや、なんでも…」 私、これじゃ辰也が世界の中心みたいだ…。 いや、でも、そうなのかな。 少し恥ずかしくなる。 「…あのさ、よかったら今度」 「」 中山が何か言いかけたとき、それを遮るように名前を呼ばれた。 「辰也」 「ちょっといい?」 辰也の表情は真剣だ。 大事な話だろうか。 「うん。ごめん、中山、ちょっと…」 「ダメだよ」 今まで話していた中山に一言言ってから席を外そう。 そう思って中山に声を掛けたら、予想外の言葉が返ってきた。 「え?」 「は、オレと話してるんだ」 意外な言葉に目を丸くする。 今話していたのは世間話だったし、まさかそんなことを言われるなんて。 「中山、でも」 「」 中山はずいぶん険しい目をしている。 初めて見る顔だ。 「」 「え、わっ!?」 辰也は私の手を引っ張って、私を教室の外へ連れ出した。 「た、辰也」 「……」 「どうしたの?」 連れて来られたのは廊下の隅にある、あまり使われてない階段の踊り場。 「何か、大切な話?」 真剣な顔をしている辰也にそう聞くけど、辰也は何も答えない。 「辰也?…っ!」 何も言わない辰也を心配して顔を覗き込んだら、キスをされた。 思わず辰也の胸を押して体を離す。 「辰也!」 「……」 「こういうところじゃダメだって!」 慌ててそう言うけど、辰也はこの間みたいに拗ねた顔をする。 …いや、この間より、怖い顔をしている。 「…どうしてダメなの?」 「え?」 辰也は私の体を引き寄せると、顔を近付けてそう言う。 「だって、ここ学校だし、誰か来るかも」 「誰かに見られたら困るの?」 辰也の顔は、怖い。 もう一度キスされそうになって、辰也の唇を手で押さえた。 「辰也!」 「……」 「…っ」 辰也は唇を押さえていた私の手を引き離すと、半ば無理矢理キスをする。 胸を押してみても、動かない。 「…っ!」 胸を叩いてみても、動かない。 苦しい。 「…はあっ…」 肩で息をすると、辰也はようやく私を解放してくれる。 「た、辰也」 「…」 「ダメって言ってるのに!」 そうきつい口調で言うと、辰也はより一層険しい顔をする。 その顔に怯んでしまって、何も言えなくなる。 「…辰也、あの」 「…」 辰也は私の唇をなぞる。 背筋がぞくっとして、辰也から視線を逸らした。 「」 どうしよう、と思っていると、チャイムが鳴る。 戻らないと…。 「た、辰也、戻ろう」 「……うん」 辰也は少し、優しい顔に戻る。 ホッとして、辰也の腕を引っ張って教室に戻った。 ← → 13.08.23 |