「ちん、室ちんとケンカしてるの〜?」 「え?」 その日の練習後、後片付けの時に敦にそう言われた。 「ケンカしてるってわけじゃ…」 「ほんと〜?でもなんかちんと室ちん変な感じじゃん。室ちんも最近機嫌悪いしー」 「……」 これはケンカなんだろうか。 別に明確に何かあったわけじゃないし…。 「早く仲直りしてよね〜室ちん怖いから」 仲直りって言っても、何をすればいいんだろう。 でも、このままじゃ嫌だし…。 * 「お疲れさまでしたー」 片付けも終わり、続々と部員たちは帰っていく。 私は辰也の練習が終わるのを待っている。 他の部員はみんな帰って、部室には私だけだ。 「」 「あ、お疲れ」 扉の開く音がして、辰也が入ってくる。 私の名前を呼ぶ声は、優しい。 「待たせてごめんね」 「ううん」 …うん。 二人でいるときは、基本的に優しい顔で、怒っているようには見えない。 機嫌が悪いのは、いつも二人でいるとき以外。 ……。 「辰也、あの」 「ん?」 「その…最近、怒ってる、よね」 「……」 辰也はまた表情を曇らせる。 いきなり表情が変わって、少し怯む。 でも、ちゃんと聞かなきゃ。 「でも、今みたいに普通のときもあるから、あのね」 「…」 「怒ってる時って、いつも、中山がいたでしょ」 辰也の目が少し動く。 図星のようだ。 自分なりに考えてみた。 部活の時も、二人だけのときも、基本的に変わった様子はない。 それに、辰也の様子に違和感を覚えたのは先週の金曜の放課後。中山と隣の席になってから。 「ねえ、前も言ったけど、別になにもないよ。本当、中学一緒ってだけで…」 「…じゃあ、もうあいつとは喋らないで」 「え?」 「近付くのもダメだ」 「そ、それは無理だよ」 隣の席だし、今は週番もやってるし、そんなのは無理だ。 それに、そもそも彼は友達で。 「どうしてそんなこと言うの?」 前に、「部活の人たちにも妬く」なんて話をしてたけど、それでもこんなふうに言われたことはない。 それより関わりの薄い中山に対してそう言う理由がわからない。 「…オレとあいつ、どっちが大事なの?」 「え?」 辰也は私の髪を撫でる。 手つきは優しいけど、なぜか怖い。 「辰也、あの」 「…」 「!」 辰也はだんだん私に近付く。 怖くて、思わず後ろに下がる。 一歩、また一歩繰り返せば、狭い部室、私はもう下がれない。 「…っ」 追いつめられて、無理矢理キスされる。 怖くて体が動かない。 「…た、辰也」 辰也の唇が私の首筋の辺りをなぞる。 これは…。 「ま、待って…っ」 制止の声を出しても意味がない。 辰也の手が、私の太股に触れる。 「やだ…っ」 怖い。怖い。嫌だ。 体を震わせて、頬には涙が伝う。 「…」 私が泣いているのを見て、辰也は私から少し離れた。 その隙に私は思いっきり辰也を突き飛ばした。 「辰也のバカ!」 泣きながらそう言って、鞄を取って走って部室を出た。 今まで何度も言ってきた言葉だけど、違う。 今までとは全然違う。 辰也が、怖い。 ← → 13.08.30 |