朝、職員室まで日誌を取りに行く。 今日は金曜。週番も今日で終わりだ。 「…ふう」 週番が終われば、辰也の機嫌もよくなるだろうか。 でも、それじゃダメだ。 ちゃんと、どうして怒ってるか聞かないと。 今日の部活はミーティングだけだから、放課後ゆっくり話をしよう。 今日こそ、ちゃんと。 ＊ 「そろそろ期末だからなー。しっかり勉強するように」 帰りのＨＲ、先生の話を聞きながら体をうずうずさせる。 早く部活に行ってミーティングを終えて、辰也と話がしたい。 今日は時間がたくさんある。前みたいに途切れたりしないだろう。 「あ、、中山、お前らちょっと資料室の整理手伝ってくれ」 「え！？」 「悪いなあ」 うう…。 まさか今日も…。 「なんかオレたちやたら仕事多くない？」 「ね…」 中山とそんな話をする。 一日多く週番やらされるし、いつもはやらないような整理まで頼まれるし…。 …ミーティングが終わるまでには、終わるかな。 「」 「あ、辰也。今日も部活遅れちゃう…っていうか、行けないかも…」 「大丈夫だよ、今日はミーティングだけだし。の方が時間掛かりそうだったら手伝うよ」 「ありがと」 普通の部活じゃないから、私が行けなくても問題ないだろう。 ＷＣまで間があるし、ミーティングも多分すぐ終了する。 「じゃあ、私できるだけすぐ終わらせるから！」 「…うん」 「…」 「、行こう」 「あ…」 辰也が少し悲しげな顔をするから、名前を呼ぼうとしたら、後ろから中山に呼ばれてしまった。 辰也はまた、あの顔だ。 「…すぐ、終わらせるから」 「…うん」 早く終わらせよう。 それでちゃんと辰也と話をして、仲直りしよう。 ケンカしてるわけじゃないから仲直りは少し違うかもしれないけど。 ただ、今みたいなのは、嫌だ。 辰也が少し遠く感じる、こんなのは、嫌だよ。 ＊ 「ふう…」 「？」 資料室は雑然としていて、気合を入れたはいいものの時間が掛かりそうだ。 少しため息を吐くと、中山が心配そうに私の顔を覗き込んだ。 「あ、ごめん」 「…、最近溜め息多いけど大丈夫？」 「え…」 「…氷室と何かあった？」 「え？」 図星を突かれて、目を丸くしてしまう。 「…喧嘩でもしてるの？」 「…そういうわけじゃ」 「本当？」 喧嘩ではない。うん。 ただ、なんとなく…。 「…大丈夫だから、心配させてごめんね」 「……」 「わっ！？」 無理して笑うと、中山に腕を掴まれた。 「な、中山…？」 「…、無理してるだろ」 そう言われて心臓がドクンと鳴った。 「無理なんて…」 「してる。わかるよ」 「…っ」 真っ直ぐ見つめられて、涙が出そうになる。 無理は、してる。してるけど。 「のことだ。オレにはわかるよ」 「…っ」 「全部話して。オレ、力になるよ」 泣きたくない。泣くのは、嫌だ。 「」 「…大丈夫、だから」 「大丈夫じゃないよ」 「……」 「のこと、わかるって言っただろ。…ずっと、見てきたから」 「え…」 思わぬ言葉が返ってきて、目を丸くする。 …見てきた、って。 「」 「…」 「…ずっと、好きだったんだよ」 「！」 中山にそう言われて、体が固まる。 …中山とは、中学から一緒で。 男子の中では仲のいい方で。 でもまさか、そんなふうに思われていたなんて。 「が氷室のせいでそんな顔してるなら、オレは、許せないよ」 「…っ」 「オレだったら、にそんな悲しい顔させない。あんな奴やめて、オレに」 「…あんな、やつ」 「ああ。にこんな顔させて、しかも何もしないんだろ。そんなひどい奴なんて」 「…離して」 恐い、暗い声が出た。 自分でも驚くぐらいの。 「…辰也のこと、悪く言わないで」 辰也はひどい奴なんかじゃない。 そんなふうに言われたくない。そんなこと、聞きたくない。 「…確かに、今ちょっとケンカしてるけど…それでも、私の好きな人なの。悪く言ったり、しないで」 考える前に口が動く。 だって、嫌だ。 好きな人のこと、こんなふうに言われるのは。 そんなこと、聞きたくない。 「…ごめん」 中山は私の腕を離すと、そう呟いた。 「…ごめん」 「…な、中山、私」 「…ごめん、後は、オレがやるから、帰っていいよ」 「…」 でも、と言おうとして口をつぐむ。 中山に好きだと言われて、でも私はその気持ちには応えられない。 二人きりでいるわけには、いかない。 「…ごめんね、中山」 「…いや、いいんだ」 中山は悲しげな顔をする。 当たり前だ。 だけど私には、これ以上何も言えない。 「………」 私は何も言わず、資料室を後にした。 …辰也は中山の気持ちを知っていたんだろうか。 だからあんなに中山のことを気にしていたのかな。 …なんだか、とても、辰也に会いたい。 ←　→ 13.09.19