「寒…っ」

身を縮こませて、自分の家まで辰也に送ってもらう帰り道。
…まあ、その、いろいろ疲れたけど、ちゃんとケーキも食べられたし、よかった。

「…ふふ」

それに、何より。
辰也の首には誕生日にあげたマフラーが巻かれていて、それだけでも嬉しくなるのに、繋いだ手には先程あげた手袋。
嬉しくて嬉しくて、仕方ない。

「辰也?」
「ん?」
「…ふふ」

辰也もすごく嬉しそうな顔をしている。
きっと、私と同じ理由だ。

私の胸元には、辰也がくれたペンダントが光っている。

「ふ…っ」

辰也の指がマフラーの下から私の胸元に入ってくる。
ペンダントトップを軽く弄る。優しい感触で、くすぐったい。

「似合ってるよ。見えないのが残念だ」
「…マフラー取ろうか?」
「寒いし、大丈夫だよ。…これから、いつでも見られるだろ?」
「うん」

もちろん、これから毎日つけるつもりだ。
…ちゃんとシャツのボタン閉めていれば、制服でも見えないよね?

「あ、でも、部活のときは外したほうがいいのかな…」
「?」

マネージャーと言えどそれなりに動き回るし、アクセサリーつけてたら危ないだろうか。
でもスポーツ見てたりすると結構つけてる人も多いか…。

「大丈夫じゃないか?」
「そういえば、辰也は試合中でもつけてるもんね、それ」

そう言うと辰也は首にかけたリングを弄る。
あ、まずいことを言ったかもしれない。少し後悔する。

辰也は最近練習熱心だ。
いつもそうだけど、最近はこちらが心配になるぐらい。
多分、原因は。

「…大切なものだからね」
「…うん」

何を言えばいいかわからず、私はただ頷くだけにした。
辰也が前に話してくれた「大我くん」。
私は彼を知らない。彼が辰也に対してどう思っているのかも、何も。

「…辰也」

手を握る力を強める。
辰也、

「…夏に、タイガに会って」
「…うん」
「WCなんてまだ先だと思ってたけど、あっという間だったな」

辰也も私の手をぎゅっと握る。
胸が苦しい。痛い。
辰也。

「…ごめんね、暗い話しちゃって」
「ううん、そんなの、全然」
「……」

辰也は私を抱きしめる。
私も辰也の背中に腕を回して、背中を撫でた。

「…気持ちいいな」
「…うん」
「もっと」

手を伸ばして、今度は辰也の頭を撫でる。
辰也は自分のおでこと私のおでこをくっつけた。

「…ごめん、寒いよね」
「え?」
「鼻が真っ赤だ」

辰也にそう言われて、思わず手で鼻を隠す。

「赤い鼻も、可愛いよ」
「う…」
「寒いし、帰ろう?もう、大丈夫だから」

辰也は笑う。
でも、

「大丈夫じゃないよ」

辰也の顔は、寂しげだ。

「大丈夫じゃないよ。わかるよ」

「私といるときまで、無理しないで」

そう言うと、辰也は私の頬を撫でた。

「…大丈夫だよ」
「辰也」
「大丈夫じゃなくても、といると、大丈夫になるんだよ」

辰也は笑う。
辰也。

「…本当?」
「うん」
「じゃあ、まだ帰らない」

そう言って辰也をぎゅっと抱きしめる。
辰也は目を丸くする。

「ぎりぎりまで、一緒にいる」
「…参ったな」

辰也は無理矢理私を剥がしてしまう。

が風邪引いたら、困るな」
「でも、…」

言い掛けて、私も止まる。
私も、辰也が風邪引いたら、嫌だ。

「…じゃあ、帰ろう」
「うん…あのね、辰也」
「?」
「何かあったら、いつでも、呼んでね。私、飛んでいくから」

そう言うと、辰也は私の頭を撫でた。

「うん、わかったよ」
「絶対だよ」
「うん」
「たつ…わっ!?」

辰也はいきなり私の脇腹をくすぐってくる。
コートの上からでもくすぐったい。

「あははっ、や、あははっ!」
「…

辰也はくすぐるのをやめると、私のおでこと自分のそれを合わせた。

「…辰也」
「…ねえ、そうやって笑っていて」
「……」
が隣で笑ってくれてたら、オレは何があっても大丈夫だよ」

辰也は優しい笑顔でそう話す。
…そっか。

微笑んで見せれば辰也も笑う。
WCは、もうすぐ。








 
13.12.13