とうとうWCが始まった。
まずは開会式そして今日は一回戦。
陽泉はシードだから、試合まで少しだけど間がある。

「はー…」

次当たるところの試合を見て、ホテルまで帰ってきた。
疲れた…。

「疲れたか?」

同じ部屋の監督がそう聞いてくる。
インターハイのときは急ぎで私の部屋を取ってもらったから一人部屋だったけど、今回は監督と同じ部屋だ。

「悪いな、教師と同じ部屋じゃ休めないだろ」
「大丈夫ですよ。一人じゃ寂しいですし」

IHのときは一人部屋が寂しくて、よくホテルのロビーで暇を持て余していたっけ。

「それならいいんだが。私は少し出かけてくるから、部屋から出るときは戸締まりをしっかりな」
「はい」

監督は鞄を持って部屋から出ていく。
…思った傍から、一人になっちゃった。

「…辰也…」

携帯の電話帳の辰也の文字をなぞる。
…呼んでも、いいかな。
いや、部屋には入れちゃいけないからロビーとかで会うことになるけど。

今日はクリスマスイブだ。

いくら直前にクリスマスパーティをしたからって、やっぱりこの日にちゃんと会いたい。
でも、明日から試合だし、気が立っているだろうし呼び出すのは悪いんだろうか。

「!」

そんなことを考えていると、ドアがノックされる。

「はい?」
、オレだけど」
「えっ」

ドアの向こうから聞こえてきたのは辰也の声。
慌ててドアを開ける。

「辰也?」
「入ってもいい?」
「え、でも」
「監督、今いないだろ?」

確かに監督はさっき出かけた。
鞄を持って出て行ったから、すぐには戻らないだろう。

でも一応決まりとして、女子部員(私だけだけど)は男子の部屋に入っちゃいけないし、その逆ももちろん。


「でも…」
「ちゃんと今日、二人でいたいよ」

辰也は私の胸元に手を伸ばして、ペンダントを弄る。
心臓が、跳ねる。

「す、少しだけね」
「うん」

…いけないと思いつつも、辰也を招き入れる。
やっぱり、私も、二人でいたい。

「辰也」


ぎゅっと強く抱きしめられる。

「た、辰也」
「やっぱり、クリスマスは大切な人と過ごしたいよ」
「…そういえば、アメリカでは家族と過ごす日なんだっけ」

日本ではクリスマスと言えば恋人同士で過ごす日というイメージが強いけど、アメリカでは家族と過ごすと聞いたことがある。
辰也もそうだったんだろうか。

「まあね。うちはそこまでしっかりやってなかったけど」
「そうなの?」
「うん」

辰也は私を抱きしめたまま話す。
…抱きしめられるのは嬉しいけど、顔も見たい。

「辰也」

名前を呼ぶと、私の言いたいことを理解したのか辰也は少し体を離す。
そして、そのまま私にキスを落とした。

「…っ」
「…大切な人だよ」
「…うん」

…私もだ。
大切な人。大事な人。
この人と、クリスマスを過ごしたかった。

「辰也、明日からのしあ…」

そこまで言うと、人差し指で唇をふさがれた。

、励ましの言葉も嬉しいけど」
「……」
「それはみんなの前でもできる」

辰也はキスをする。
優しいキスだ。

「せっかく二人きりなんだ。二人きりでしかできない話をしよう」

辰也はずいぶん色っぽい顔をする。
ドキドキ、心臓が鳴る。

「…話だけだよ?」

なんとなく、そう言ってみると辰也が意地悪く笑う。

「何期待してるの?」

その言葉にポッと顔が赤くなる。

「ち、違うよ!してない!」
「本当?」
「してない!してないからね?!」

慌てて否定すると、辰也はますます面白そうに笑う。
楽しそうだ。

「してないの?」
「してないってば!」
「キスも?」

辰也は笑う。意地悪そうに。

「キスもしなくていい?」
「…意地悪」
「知ってるだろ?」

辰也は少し顔を近付ける。
…本当に、意地悪だ。

「…して、ほしい」

顔を赤めながらそう言うと、辰也は優しく笑った。

「メリークリスマス」








 
13.12.27