WC、うちは順調に勝ち進んでいる。
次の試合はとうとう、

「アレックス!」

会場を歩いていると、辰也が少し驚いた声をあげる。
目線の先には、金髪美女さん。

写真でしか見たことないけど、すぐにわかる。
アレックスさんだ。

「会いたかったぜー」
「久しぶりだな、いつ日本に?」

話には聞いていたけど、大きい。
ヒールのある靴を履いているとはいえ、辰也と同じくらいだ。

…うん、大きい…。

「すぐ戻ります」

辰也とアレックスさんはそう言って外へ出ていく。
半年近く会ってないはずだし、積もる話もあるだろう。
…ちょっとだけ、胸がざわつくけど。

「おい、知ってんのか?あの外国人」

あっけにとられていた福井先輩。
(話を聞いていた私でもぽかんとしてしまったし仕方ないだろう)
我に返ってそう聞いてくる。

「話は聞いたことが…アメリカにいた頃、バスケを教わってたみたいです」
「へえー…なんか強烈な人だな…」
「ですね…」
「で、いいのか?二人で出てったけど」
「え?」
「…がいいなら、いいけど」

福井先輩の言葉の意味を理解して、私はうつむく。

紛れもなく、ヤキモチだ。

…嫌だな。相手は辰也の大切な人なのに。
こんな気持ちになるなんて。

「……」

頭を振って気持ちを切り替える。
…この話は、WCが終わった後に辰也とすればいい。
今は、目の前に控えた誠凛戦だ。




「ふう…」

ビデオで誠凛のスカウティングをしてミーティング。
それも終わり、部屋では監督が真剣な顔で明日の作戦を練っている。

邪魔しちゃ悪いかな。そう思ってホテルのロビーまで来た。



伸びをすると、後ろから声をかけられる。
辰也だ、そう思って少し心を弾ませて振り返る。

「……」
「こんなところでどうしたの?」
「あ…」

辰也を見て一瞬驚いてしまった。
私を見る表情は優しいけど、なんとなく雰囲気が、怖い。

…当たり前だ。
明日は試合。それも、前から戦いたがっていた大我くんのいる誠凛だ。
気が立っているんだろう。

「…監督、明日の作戦考えてるみたいで、邪魔しちゃ悪いかなって」
「そっか」

辰也は私の隣に座る。
…ダメだ。私もドキドキする。

「…明日勝てば、ベスト4だ」
「…うん」

辰也は小さい声で呟く。
明日、勝ったら。

心のどこかで、戦ってほしくないなと思う。
夏合宿の時聞いた話。その後聞いた大我くんのこと。

…試合に勝っても負けても、大我くんと戦ったら、辰也は。


「え、あ」
「激励の言葉とかないの?」

辰也は苦笑する。
あ、そ、そうか。

「…頑張ってね」
「うん」

辰也の手を握ってそう言う。
頑張って。負けないで。

「…負けないでね」
「うん。もう少し、みんなでバスケしていたいし」

負けたら終わりのトーナメント戦。
負けたらそこで3年生は引退だ。

「…頑張るよ」

いろんな想いが交錯する。
負けないでほしいと思う。
先輩たちとまだやっていたい。
みんながたくさん練習してきたのも知っている。
優勝して、その思いを叶えてほしいと思う。

そして、辰也のことも。
辰也は勝てばそれでいいというわけじゃない。
いろんな思いがあるだろう。

辰也は首にかけたリングを弄る。



明日は、誠凛戦だ。








 
14.01.03