WC、うちは順調に勝ち進んでいる。 次の試合はとうとう、 「アレックス!」 会場を歩いていると、辰也が少し驚いた声をあげる。 目線の先には、金髪美女さん。 写真でしか見たことないけど、すぐにわかる。 アレックスさんだ。 「会いたかったぜー」 「久しぶりだな、いつ日本に?」 話には聞いていたけど、大きい。 ヒールのある靴を履いているとはいえ、辰也と同じくらいだ。 …うん、大きい…。 「すぐ戻ります」 辰也とアレックスさんはそう言って外へ出ていく。 半年近く会ってないはずだし、積もる話もあるだろう。 …ちょっとだけ、胸がざわつくけど。 「おい、知ってんのか?あの外国人」 あっけにとられていた福井先輩。 (話を聞いていた私でもぽかんとしてしまったし仕方ないだろう) 我に返ってそう聞いてくる。 「話は聞いたことが…アメリカにいた頃、バスケを教わってたみたいです」 「へえー…なんか強烈な人だな…」 「ですね…」 「で、いいのか?二人で出てったけど」 「え?」 「…がいいなら、いいけど」 福井先輩の言葉の意味を理解して、私はうつむく。 紛れもなく、ヤキモチだ。 …嫌だな。相手は辰也の大切な人なのに。 こんな気持ちになるなんて。 「……」 頭を振って気持ちを切り替える。 …この話は、WCが終わった後に辰也とすればいい。 今は、目の前に控えた誠凛戦だ。 * 「ふう…」 ビデオで誠凛のスカウティングをしてミーティング。 それも終わり、部屋では監督が真剣な顔で明日の作戦を練っている。 邪魔しちゃ悪いかな。そう思ってホテルのロビーまで来た。 「」 伸びをすると、後ろから声をかけられる。 辰也だ、そう思って少し心を弾ませて振り返る。 「……」 「こんなところでどうしたの?」 「あ…」 辰也を見て一瞬驚いてしまった。 私を見る表情は優しいけど、なんとなく雰囲気が、怖い。 …当たり前だ。 明日は試合。それも、前から戦いたがっていた大我くんのいる誠凛だ。 気が立っているんだろう。 「…監督、明日の作戦考えてるみたいで、邪魔しちゃ悪いかなって」 「そっか」 辰也は私の隣に座る。 …ダメだ。私もドキドキする。 「…明日勝てば、ベスト4だ」 「…うん」 辰也は小さい声で呟く。 明日、勝ったら。 心のどこかで、戦ってほしくないなと思う。 夏合宿の時聞いた話。その後聞いた大我くんのこと。 …試合に勝っても負けても、大我くんと戦ったら、辰也は。 「」 「え、あ」 「激励の言葉とかないの?」 辰也は苦笑する。 あ、そ、そうか。 「…頑張ってね」 「うん」 辰也の手を握ってそう言う。 頑張って。負けないで。 「…負けないでね」 「うん。もう少し、みんなでバスケしていたいし」 負けたら終わりのトーナメント戦。 負けたらそこで3年生は引退だ。 「…頑張るよ」 いろんな想いが交錯する。 負けないでほしいと思う。 先輩たちとまだやっていたい。 みんながたくさん練習してきたのも知っている。 優勝して、その思いを叶えてほしいと思う。 そして、辰也のことも。 辰也は勝てばそれでいいというわけじゃない。 いろんな思いがあるだろう。 辰也は首にかけたリングを弄る。 明日は、誠凛戦だ。 ← → 14.01.03 |