大学の授業も始まり、本格的に新生活のスタートだ。
自分ひとりで生活することは想像以上に大変で、新しい土地に新しい人間関係、いろんなことが合わさってなかなか疲れがとれない。

だからと言って、休日ものんびりしてられない。
今日も授業のない土曜だけれど、のんびり寝てないでちゃんと起きてアルバイトを探さなくちゃ。
……いけないのに。体が起き上がらない。
枕元のアラームを止めるので精一杯だ。

「うーん……」

なんでだろう。腕に力をこめて体を起こそうとするけれど、やたらと体が重くって、うまく起きられない。
へたん、とベッドにもう一度沈んだところで、ようやく理解した。

「風邪、引いた……」

手の甲を額に当てるとじんわりと熱が伝わってくる。
喉も痛いし、体もだるい。完全に風邪の症状だ。

這い出るようにベッドから出て、救急箱から体温計を出した。
体温計が示したのは37.8℃。
想像以上に高い……。

「うう……」

駄目だ。動けない。
もう一度ベッドにダイブした。






午後。どうにか重い体を引きずって近所の病院に行って薬をもらってきた。
診断はやはり風邪で、薬を飲んでゆっくり休んでいれば治るだろうと言われている。

「はあ……」

今日はアルバイト探しをするつもりだったのに、これでは家事もできやしない。
気持ち悪いし、体は重いし、最悪だ。
薬を飲むためにご飯も食べなきゃいけないけれど、作る元気もない。

本日何度目かわからないため息を吐くと、枕元の携帯が震えた。

「あ、辰也……」

ディスプレイに映し出されたのは「氷室辰也」の文字。
確か今日は部活があるって言っていたけど……。

「もしもし、辰也?」
「あ、オレだけど……、大丈夫?」
「え?」
「なんだか元気がないから……もしかして体調悪い?」

辰也の言葉を聞いて、口をぽかんと開けてしまった。
たった一言喋っただけなのにわかるなんて、辰也は一体何者なんだ……。

「う、うん。ちょっと風邪引いちゃって」
「え!?熱は!?」
「7度8分……」
「すごく高いじゃないか!病院は?ああ、待って。今からそっちに行くよ」
「えっ」
「すぐに行くから待ってて!」
「え、ええ!?」

辰也は私の返事を聞く前に電話を切ってしまった。
い、今からくるの……?この部屋に……?
別に部屋は荒れていないし見られて困るものもないけれど、まさか来るなんて思っていなかったから焦る。

「そんなの悪いよ」と慌ててメッセージを送るけれど、すぐに「困ったときはお互い様だよ。気にしないで」と返ってきた。
そう言われると何も返せなくなってしまう。それに辰也はこういうとき強情なのだ。

……でも、悪いと思いつつも少し安心している自分もいる。
具合が悪い中部屋で一人きりというのは想像以上の不安だったのだ。

ぎゅっと携帯を握りしめる。
…辰也に会いたい、な。





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17.10.18