「はあ…」

バレンタインから数日。
が部室で息を漏らした。

「何かあったの?」
「…ううん、何にも。ただ、ときどき不安になっちゃって」

はそう言って机に突っ伏す。
表情から察するに、確かに何かあったわけではなさそうだ。
単純に不安なんだろう。
ときどき湧き上がる、不安。
のそんな顔は、あまり見たくないな。

「…は、可愛いよ」

の隣に座って、そう伝える。
は、可愛い。
本当に、可愛いよ。

「ひ、氷室」
「不安になるなってほうが無理かもしれないけど」

赤くなったの頬を撫でる。
少し、熱い。

「不安そうにしてる顔より、明るく笑ってる方が、は可愛いよ」

精一杯笑ってそう言うと、は恥ずかしそうな顔をする。

「ひ、氷室」
「ん?」
「あ、あの、ありがとう」

真っ赤な顔ではそう言った。
…うん、可愛い。

「…どういたしまして」

別に励ましてるわけじゃない。
ただ、そう思ってるんだよ。

「で、でもね」
「?」

は赤い顔のまま、小さな声で話し出す。

「か、可愛いとか、あんまり言わないで…」

は恥ずかしそうな声でそう言った。
…そっか。

「…可愛いよ」
「だ、だから」
「本当にね」

そう言い切ると、は驚いた顔をする。

「…氷室?」
「…ごめん。嫌ならもう言わないけど」
「…」
「ただ、覚えておいて。は、すごく可愛いよ」

の頭を撫でる。
は、可愛いよ。
世界で一番。

「だから、自信を持って。は、キラキラした笑顔が一番素敵だ」

の手を握る。
皮肉なようだけど、の相談を受けているうちに、のあいつを思う表情に惹かれてしまった。
キラキラした笑顔で、誰かを一途に想う顔。
一番、綺麗な顔だ。

「…氷室、私…」
「…もう、帰るね。また明日」

の言葉を遮るように言う。
まずいな。

自分でも、限界だ。

「…う、うん。また明日」

今まで、たまに頭や頬を撫でたり、軽いスキンシップをしてきたけど、そろそろ歯止めが効かなくなりそうだ。
に触れたい。
でも、触れるわけには、いかない。














気付いても引き返せない
 top 
14.03.18