「」 「あ、氷室」 「それ職員室に？半分持つよ」 昼休みの廊下。 がノートを抱えて歩いていたので、そう声を掛ける。 「ありがとう」 「ん」 は俯いてそう言う。 …この間から、いつもそうだ。 「…」 「は、はい」 「ごめん。緊張してるだろ」 「え…」 「この間、あんなことしたから。ごめんね」 この間、部室でしたこと。 が、オレに無防備に近付かないように。 そう思ってしたことだけど、こうやって警戒されると寂しいと思うなんて、本当に、オレは。 「い、いや、氷室のせいじゃなくて…」 「自分でしといてなんだけど、そんな警戒しないでほしいな。何もしないから」 何かできるわけがない。 に何かする勇気なんて、オレにはないよ。 「…ん」 は小さく頷く。 …ごめんね。 「……」 黙って職員室までの道を歩く。 階段に差し掛かると、はなぜか慌てて階段を駆け上がる。 「！」 そのの目の前に、男子生徒が一人走って来る。 彼はとぶつかるとそのまま階段を駆け下りてしまう。 「あっ！」 一方のは、肩が当たったせいで体のバランスを崩してしまう。 落ちる。 「！」 ノートを投げ出して落ちてくるを抱き留めようとする。 一瞬、顔が近付いた。 「…っ」 「！」 「…あれ」 オレの腕の中にいるはぎゅっと瞑った目を開ける。 「！わっ！」 は驚いた顔をしてオレから離れる。 「大丈夫？」 「ご、ごめん！」 「いや、大丈夫。、ケガはない？」 「う、うん。平気。ありがとう」 「どういたしまして。無事でよかった」 そう言って散らばったノートを拾い集める。 …手が少し、震える。 「……」 さっき、抱き留めた時。 唇が掠めた。 気のせいじゃない。 「慌てないで、階段はゆっくり」 「…はい」 ノートを集めて、もう一度階段を上り始める。 …は、気付いているだろうか。 「ありがとう」 「いいえ」 職員室にノートを運び終えると、は優しく笑ってそう言った。 そのまま教室に帰ろうとすると、呼び止められた。 「あ、氷室…」 「ん？」 「…いや、なんでもない」 「そう？」 が気付いていないことだけを祈る。 話を聞く限り、今まできっとキスしたことなんてないんだろう。 のファーストキスが、オレなんて、 「……」 自分でもバカだなと思う。 何を嬉しいと思ってるんだ。 キスなんて大したことじゃないと、アメリカにいた時は思っていたのに、今は胸が張り裂けそうだ。 たとえ気のせいでも ←　top　→ 14.04.29