「……」 体育館に一人残り自主練を進める。 今日はシュート練習だ。 放ったボールはリングに当たり、ネットを通ることなくコートに落ちた。 …今日はダメだ。調子が悪い。 集中力に欠けている。 「……」 何が原因かはわかっている。 「…」 今日、後輩の女子に告白された。 バレンタインにチョコをオレの机に入れた子らしい。 チョコを渡しただけでよかったけど、やっぱりちゃんと言いたくて…、と彼女は言っていた。 オレなんて言う勇気すらないと言うのに。 もちろん断ったけど、彼女のことは違う意味で心に残ってる。 …オレも、そろそろケリをつけないと。 * 自主練を終え部室に入ると、が部誌を書いていた。 「」 「!」 「まだ帰ってなかったんだ」 「…うん」 ちょうどよかった。 いるなら、言いたいことがある。 「氷室」 「」 思いっ切り被ってしまった。 はずいぶん思いつめた顔だ。 「ひ、氷室どうぞ」 「…いや、からでいいよ」 「…ううん、いいの。氷室話して」 「…そっか」 そう言われたのでオレから話すことにする。 の隣に座った。 「…もうさ、こうやって話すのやめたほうがいいと思うんだ」 は驚いた顔をする。 …ごめん。そう心の中で呟いた。 「え…」 「うまくいきそうじゃないか。最近、仲良くなってきたし。他の男と一緒にいるところ、見られるのはまずいだろ」 「で、でも」 「もうオレが何かアドバイスすることもないしさ。頑張って」 の肩にぽんと手を置いた。 最後の激励のつもりだった。 「!」 は、その手を握ってきた。 「あ、ごめん…」 は寂しそうな顔で、すぐにその手を引っ込める。 「…氷室」 「…の話は?」 話題を変えたくて、に話を振る。 「あ、その…、…あの、ね。嫌だったら答えなくてもいいんだけど」 「うん」 「…氷室は、好きな子、いるの?」 突然の言葉に目を丸くする。 いきなり、何を。 「あ、あのね。ほら、いつも私の話聞いてもらってばっかりだったでしょ。だから、氷室はどうなのかなって」 「いるよ」 の言葉を遮るように言葉を放った。 「…いるよ」 「…そっか」 いるよ。 ここにいるよ。 「…そうだね、氷室も、その子に誤解されたら困るもんね」 は俯いて部誌を閉じる。 そのまま慌てるように帰り支度をした。 「…じゃあね。また、明日」 「ああ」 はオレの顔を見ないまま部室を出た。 …これで、終わりだ。 きっと、とまともに話すことはないだろう。 それでいいんだ。 それで、いいんだ。 へたくそな笑顔が隠したもの ← top → 14.06.10 |