「……」

体育館に一人残り自主練を進める。
今日はシュート練習だ。
放ったボールはリングに当たり、ネットを通ることなくコートに落ちた。

…今日はダメだ。調子が悪い。
集中力に欠けている。

「……」

何が原因かはわかっている。

「…

今日、後輩の女子に告白された。
バレンタインにチョコをオレの机に入れた子らしい。
チョコを渡しただけでよかったけど、やっぱりちゃんと言いたくて…、と彼女は言っていた。

オレなんて言う勇気すらないと言うのに。
もちろん断ったけど、彼女のことは違う意味で心に残ってる。

…オレも、そろそろケリをつけないと。





自主練を終え部室に入ると、が部誌を書いていた。


「!」
「まだ帰ってなかったんだ」
「…うん」

ちょうどよかった。
いるなら、言いたいことがある。

「氷室」


思いっ切り被ってしまった。
はずいぶん思いつめた顔だ。

「ひ、氷室どうぞ」
「…いや、からでいいよ」
「…ううん、いいの。氷室話して」
「…そっか」

そう言われたのでオレから話すことにする。
の隣に座った。

「…もうさ、こうやって話すのやめたほうがいいと思うんだ」

は驚いた顔をする。
…ごめん。そう心の中で呟いた。

「え…」
「うまくいきそうじゃないか。最近、仲良くなってきたし。他の男と一緒にいるところ、見られるのはまずいだろ」
「で、でも」
「もうオレが何かアドバイスすることもないしさ。頑張って」

の肩にぽんと手を置いた。
最後の激励のつもりだった。

「!」

は、その手を握ってきた。

「あ、ごめん…」

は寂しそうな顔で、すぐにその手を引っ込める。

「…氷室」
「…の話は?」

話題を変えたくて、に話を振る。

「あ、その…、…あの、ね。嫌だったら答えなくてもいいんだけど」
「うん」
「…氷室は、好きな子、いるの?」

突然の言葉に目を丸くする。
いきなり、何を。

「あ、あのね。ほら、いつも私の話聞いてもらってばっかりだったでしょ。だから、氷室はどうなのかなって」
「いるよ」

の言葉を遮るように言葉を放った。

「…いるよ」
「…そっか」

いるよ。
ここにいるよ。

「…そうだね、氷室も、その子に誤解されたら困るもんね」

は俯いて部誌を閉じる。
そのまま慌てるように帰り支度をした。

「…じゃあね。また、明日」
「ああ」

はオレの顔を見ないまま部室を出た。

…これで、終わりだ。
きっと、とまともに話すことはないだろう。

それでいいんだ。
それで、いいんだ。














へたくそな笑顔が隠したもの
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14.06.10