「、東京住んでたって言っとったけどどこに住んでたん?」 「んー…言ってもわかんないと思う。マイナーなところだったから」 「明日、またここでな」 白石のその言葉に従って、今日も私は屋上でお弁当を食べている。 昨日より箸が進むスピードも速いし、この状況にも大分慣れてきた。 まあ、話を振るのはほとんど白石で、私はそれに答えているだけなんだけど。 「東京の友達と今でも連絡取ってるん?」 「たまにね。あっちの子たちも忙しいみたいだし」 「あっち行ったりはせえへんの?」 「春休みは行かなかったけど、多分夏休みは行くよ」 白石のお弁当は今日もおいしそう、そんなことを思いながら話していると白石は私の視線の先に気づいたのか、 「なんか気になるん?」と聞いてきた。 「う、ううん、別に」 「ああ、弁当?今日は卵焼きないんやけど」 「いや、気にしないで!」 そんなお弁当ばっか見てて、これじゃ私食いしん坊みたいじゃないか。 慌てて話題を変えようと必死に頭を回転させる。 「あ、白石、テニス部ってどうなの?」 「どうって?」 「いや、楽しいのかな、とか、そういうこと」 「ああ、そらおもろいやつばっかやし、好きなことやってるからな」 白石は柔らかい顔で笑う。本当によく笑う人だなあ。 笑うって言っても大笑いしたりとかではなくて、相手を包み込むように笑ってくれるから、つい私も笑ってしまう。 「いいなあ、楽しそうで」 「、部活つまらないんか?」 「つまらないってわけじゃないけど、そりゃ、テニス部と比べたら」 面白い人だらけのこの学校の中でも、テニス部はさらに変人揃いと有名なのだ。 自分の部活も嫌いじゃないけど、そんなテニス部を思うとちょっとうらやましいな、と思ってしまったり。 「、また笑顔忘れとるで」 「え、いや、そんな食べてる最中ずっとにやけてたら変な人じゃない?」 「大丈夫大丈夫、うちの部の後輩なんかいっつも笑っとるで」 正直、変な人が多いテニス部と一緒にされても…という感じなんだけど…。 「今、なんや失礼なこと考えとるやろ」 「えっ!?そ、そんなこと…」 「あれ、冗談やったんやけど、図星なん?」 「いや、違うって!」 「…」 白石は真剣な顔で私を見つめる。 やばい、もしかして怒らせた? でも、まさか本当に私の心を見透かしたりはできないはず。 怒るポイントなんて特にないと思うんだけど…。 「慌てた顔も可愛いなあ」 白石は慌てていた私をからかうように笑ってそう言った。 ……なんだろう、この悔しいような恥ずかしいような気持ちは。 「あ、」 「どないしたん?」 ふと時計を見ると、すでに昼休みは残り15分になっていた。 「ごめん、今日委員会あって、それのまとめしなきゃいけないから、もう戻るね」 「クラス委員の?」 「そう、ごめんね。楽しかったよ」 まだお弁当の中身は少し残っていたけど、急がなきゃ。 そう思いながら鞄にお弁当箱をしまって立ち上がった。 「」 「何?」 「あんま無理したらアカンで」 そう言った白石の顔は昨日の違和感を感じた笑顔と同じだった。 何か、ほかに言いたいことがあるような、そんな雰囲気。 なぜかわからないけど、理由を聞く暇もない。 「無理なんてしてないよ」と、言おうとしたけど何故かその言葉は喉のあたりで詰まってしまった。 仕方ないから、無理矢理笑顔を作って「ありがとう」と答えてその場を去った。 ← top → 09.10.16 |