「、」 放課後のホームルームも終わって委員会の準備をしているとき、後ろの席の忍足が話しかけてきた。 忍足とは一年の頃からクラスが一緒だったこともあって、割りと仲のいい男子だ。 「どうしたの?」 「いや、ちょっと聞きたいことあんねんけど…」 忍足は何だか居辛そうにしている。 「なんか聞きづらいこと?」 「んー…その、なあ」 「?」 「、白石と付き合ってるん?」 ……… 今の、幻聴? 「な、なに言ってんの!?」 「ちゃうの?」 「違う!違うよ!」 「いや、だって白石はのことが好きやってもっぱらの噂やし、今日一緒に弁当食うてたし…」 「!」 二人でお弁当なんて食べてたら、すごくまずい気がする、とは確かに思った。 だからってまさか、ほんの数時間前のことがすでに知られているなんて…。 あ、でも、待って。 「私と白石がお昼一緒に食べたって知ってるの、忍足だけ?」 「ああ、多分。一緒に弁当食おう思て話しかけたら『今日はと昼食うんや』って言われたんや。昨日も同じこと言ってたし、てっきり…」 「じゃあそれ、誰にも言わないでね!」 「別にええけど…。付き合ってないなら何で昼一緒に食うたん?」 「んー…話せば長くなるもので…」 「ふーん…」 あの噂の真偽を白石と仲のいい忍足に聞いてみようかと思ったけど、やめておいた。 そういうの、他人に聞いちゃいけない気がするし。 「…あの噂さ、白石も知ってるんだよね?」 「ああ、そら、なあ」 「………」 噂のこと、白石は一体どう思ってるんだろう。 本当に白石が私のこと好きだとしても、噂が流れるなんて絶対に嫌だろ思うし、私のこと好きじゃなくてもそれはそれで困るだろうし。 とりあえず、私は今では白石のことは好きではある。 恋愛感情ではなくて、クラスメイトとして。 2日間一緒にお昼を食べて、最初は強引と思ったけど楽しかった。 だけど、白石と付き合っているという噂が広がってしまったら困る。 忍足はお昼を一緒に食べてること、他の人は知らないと言っていたけど、誰かに見られてる可能性だってある。 そんな噂が広がる危険を冒してまで白石をお昼を食べたいかと言われると、正直な話そこまでではない。 忍足の机に肘をついて、白石の机のほうを向いた。 白石は今から部活なんだろうか、ちょうどテニスバッグを抱えて席を立つところだった。 「あ、俺も部活行かな」 「ん、行ってらっしゃい」 忍足は立ち上がり白石の元へ駆け寄ると、二人一緒に教室を出て行った。 私もこのまま帰りたいところだけど、今日はクラス委員の集まりがあるのだ。 「面倒だなあ…」 誰にも聞こえないほどの声で呟いて、私も席を立った。 * 「じゃあさん、これ、総会までにまとめておいてね」 先生のその言葉で委員会は終わった。 私は別にクラス委員長というわけではないんだけど、こういうことを頼まれることがやたら多い。 頼まれたら断れない私の性格をみんな知っているんだろうか。 まとめておいて、と言われた資料は多く、これはすぐには終わりそうにない。 今日と明日の放課後使って…、と考えながら校門を出ようとしたとき、後ろから誰かが私を呼ぶ声がした。 誰だろうと思って振り返ったとき、すぐその行動を後悔した。 「よっ、」 「…白石…」 まずい、このままでは一緒に帰る羽目になってしまう。 四天宝寺は学校の方針で全校生徒が文化部運動部両方に入っているため、授業が終わって大分時間が経っているこの時刻でも学校内に生徒はたくさん残っているのだ。 2日連続で一緒にお昼食べて、その上一緒に帰ったりしたらどう思われるか、想像に難くない。 「白石も、今帰りなの?」 「せや。偶然やなあ」 「…本当にね」 「、帰り道どっち?」 そう聞かれて、白石とは逆方向であることを祈りつつ右のほうを指差したけど、その祈りは届かなかったようだ。 「俺も帰り道そっちや」 ……私は何かに呪われているんだろうか。 「一緒に帰ろうや」と笑顔で言ってくる白石の誘いを断ることなんて、私にできるはずもない。 ← top → 09.10.30 |