もう6時は過ぎているけれど、夏なのでまだまだ明るい。
おかげで隣りの人だけではなく、少し離れたところにいる人の顔もちゃんと見える。
つまり、周りの人からも白石と私の顔を見えているということで。

、なんや、挙動不審やな」
「いやっ、別に…」

正直、私も迂闊だったと反省している。
最初にお弁当を食べたときは噂のことも覚えていたけど、今日はすっかり忘れてしまっていた。
自分はしっかりしていると思っていたけど、今回ばかりは間抜けだと自分を戒めたい。

「白石、は」
「ん?」
「…なんでもない」

噂のこと、聞いてみようと思ったけど、やっぱりやめた。
本当のことを聞いたところで噂が収まるわけじゃないし、どんな答えが返ってきても気まずいだけだ。

「疲れてるんか?」
「え、なんで」
「昼はもっと元気あったような気するんやけど」

誰のせいだ、誰の。と突っ込みたかったけどさすがにそれはしなかった。

「そりゃ、昼から授業もあったし委員会もあったし、昼のままってわけにはいかないよ」
「無理したらアカン言うたやろ」
「、無理してなんて」

また、お昼のときと同じように言葉が喉で詰まる。
「無理してない」それだけを言えばいいはずなのに、どうしてだろう。


「な、何?」
「声、震えとる」

私を見る白石の目は、さっきまでのような柔らかいものではなく、何か思いつめたような、そんな目だった。
お弁当を食べているとき、何度か見せたあの顔と似ている。
耐え切れない、とでも言いたげな表情で白石は私を見つめてくる。

、自分でも気づいとらんのやろ」
「何、を」
「自分が無理してるってこと」

白石の言葉に心臓がドクンと跳ねる。
無理してる?私が?

「委員会とか、ほかのこともなんでもかんでも引き受けてまうんやろ」
「そんなこと、ないよ」
「ホンマに?」

確かに頼まれたら断れないけど、私は別に、無理してるつもりなんてない。
そんなつもりないのに、どうして、言葉が出てこないんだろう。

「否定しないのは、図星やからやろ?」
「っ、なんで、白石がそんなこと言うの?白石には関係ないでしょ?」

きつい言い方をするつもりはなかったのに、なぜか私の言葉はやたら刺々しい。
そんなこと言われたのは初めてで、自分でもなんで怒っているのかわからない。
だけど、白石の顔を見れなくて、私は泣きそうで。

「確かに関係あらへんな」
「関係ないなら黙っててよ!」
「黙ってられへんから言うとんのや」

白石はじっと私のことを見てる。
でも私は相変わらず下を向いたままで、必死に瞬きをしないよう堪えている。

「…先、帰る」

かろうじて出た言葉はそれで、私は白石のことを見ないまま走り去った。

「…やってもうたな」
そんな白石の呟きは、もう私には届いていない。



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09.11.23