昨日は、結局家に帰ってやるつもりだった資料のまとめもせずにベッドに入った。
それ以外にもやらなきゃいけないことはあるのに。

学校に行くのすら、今日はつらかった。
朝学校に行けば、大抵クラスの子に授業のこととか宿題のことを聞かれる。
いつもは普通に対応できるけど、今日は気が重い。
だけど私の都合で嫌な思いをさせたくはないので、できるだけ笑顔でいるようにした。
そのおかげか、相手の子はいつも通り「ありがとう」と言ってくれる。
そういえば、笑顔が大事って、白石も言ってたっけ。

それでも、やっぱり私が暗いことに友人は気づいていたらしく、帰りのHRが終わった後「何かあった?」と聞いてきた。

「…私って、無理してるように見える?」
「え?何で?」
「昨日、白石にそう言われたの。それがなんだかやたら引っかかっちゃって、それで」
「白石とケンカしたん?」
「…ケンカっていうか…」

正確にはケンカとはちょっと違うだろう。
白石は怒ってるわけじゃないし、私も「怒っている」とは、ちょっと違う。

「だから今日、お昼こっちで食べたんや」
「…だって、行けないもん」

いくらなんでも、屋上になんて行けるわけがない。
それをわかってるのか、白石も昼休みは私のことを見ることもなく、教室でお弁当を食べていた。

「…じゃあ、今日帰りにぱーっとアイスでも食べに行かへん?」
「あ、ごめん。今日は昨日の委員会のことでちょっと…」
「…そっか」

友人はちょっと残念そうな顔をすると、「無理しちゃダメだよ」と言って教室を出て行った。
無理、か。

とりあえず、私は目の前にあるこの資料をまとめないといけない。
クラス委員と言ったって、別にそんなに四六時中忙しいわけではない。
ただもうすぐ生徒総会といった一般的な学校行事に加え、お笑いツアーなどの四天宝寺ならではの行事が控えているのだ。
もちろん、それぞれ実行委員や生徒会が基本的な準備をしているけれど、クラス委員はそれのバックアップ的な立場を担っている。

「はー…」

いくら四天宝寺といえど、生徒総会くらいは真面目にやる。
一学期の活動報告、これからの活動指針、まとめなきゃいけないものは山ほどある。

「…頑張ろう」

そう呟いて、ペンケースからシャーペンを取り出した。



あれから大体一時間くらい経っただろうか。教室には私以外誰もいない。
時々グランドから運動部の声が聞こえてくるけれど、ほかには特に雑音もなく、作業をするにはベストな状態。
そのはずなのに、ときどきシャーペンが止まってしまう。

「無理したらアカンよ」「黙ってられへんから言うとんのや」
白石の言葉が頭をぐるぐる巡って、私の思考の邪魔をする。

目の前にある仕事とか、今までやってきたこととか、確かに大変だったこともある。
それでも、それをやるのは私にとって「当たり前」のことで、無理してるなんて、思いもしなかった。

なのに、なんで、今私の手は震えているんだろう。
それに、泣きそうで、なんで、
私は、本当に

「…?」

いきなり聞こえた声にはっと我に返る。
教室の入り口には、白石がいる。



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09.12.19