クラス委員ではない白石に活動報告を書かせるわけには行かないので、白石には私が書いた文章を見てもらいつつ、資料を整理をしてもらった。
白石はさすが仕事が早くて、一人ではとても時間が掛かったであろうことが、あっという間に終わってしまった。

「あー…終わった!」
「お疲れさん」
「ありがとう」

今までこういったことも一人でやってきたけど、二人でやればこんなにも早く終わるものなのか。
つくづく自分一人で背負い込んでたんだなあと思い知る。

「白石、その…」
「ん?」
「昨日はごめん」

謝らなくていい、って言われるだろうと思ったけど、それでも言いたかった。

「謝らんでええよ」
「ん…。なんか、私、無理してたっていうか、一人で背負い込みすぎてたって感じなのかな」

白石は、またあの柔らかい笑顔になって、私の頭を撫でた。

「あ、あの…」
「ホンマ、お疲れ」
「…ありがと」

少し、いや、かなり照れくさいけど、嬉しい。
そう思いながらほころぶ顔を必死に抑えていると、虫の鳴くような音が聞こえてきた。
…虫?

「今の…」
「わー!何でもない!何でもない!」
、腹減っとる?」
「ちょっと!」

確かに今日はお昼ご飯をほとんど食べられなかった。
だからって、このタイミングで鳴るなんて、私のお腹は空気読まなすぎだと思う…!
真っ赤になっている私の目の前で白石はお腹を抱えて笑っている。

「ぷっ…、ははっ」
「…白石?」
「タイミングよすぎやろ。ははっ、あー…腹痛い」
「…ちょっと、デリカシーってものはないの?私、すっごく恥ずかしいんですけど」
「あー、悪い悪い…」

そう言いながら白石は笑いすぎて出てきた涙を拭う。正直、悪いと思っているようには見えない。

「ほな、一緒にご飯食べる?」
「え?」
「俺も帰りに食お思ってたパン持っとるし、もまだ弁当残っとんのやろ?」
「…うん」

このままじゃ次いつお腹が鳴るかわかったもんじゃない。
ここは素直に白石に従っておいたほうがよさそうだ。
私は鞄の中から食べかけのお弁当を取り出した。

「いただきます…」
「…ふっ」
「ちょっと、まだ笑ってるの?」
「あ、そっちやのうて」
「?」
「ただ、、随分笑うようになったなあ思て」

そう言って白石は購買で人気のパンを齧る。
2日前、白石と最初にお弁当を食べたときは緊張して笑顔どころじゃなかったのに。
…というか、まだあれから2日しか経ってないんだ。

「なんか、いろいろあったせいかな。長いような短いような」
「何が?」
「白石とお昼食べるようになってから。もう一週間くらい経ってるような気がしてる」

特に昨日の帰りからは本当に長く感じた。
昨日、白石とお昼を食べたのがもうずっと昔のことのようだ。
また、こうやってご飯を食べられるようになるなんて。

少し、嬉しいな。そう思いながらお弁当に手をつけた。

「白石、あの」
「?」
「明日も、一緒にお昼食べていい?」

私は割りと必死な思いで言ったんだけど、白石はあっさりと「当たり前やん」と返した。
…なんか、私ばっかり意識してるみたい。

、顔赤いで」
「…誰のせいよ」
「俺?」

悪戯っぽく笑いながら、白石は私の頭をまた撫でた。

、よう頑張ってるなあ」
「…白石、頭撫でるの好きなの?」
「んー、それもあるけど、ただ頑張ってて偉いなあっちゅー意味で撫でてんのや」
「…私、子供みたい」

そう言ったけど、私の顔は緩んでいる。
褒められるためにやっていたわけではないけれど、こうやって褒めてもらうのは嬉しいもんだなあ。

「…ありがとう」



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10.03.19