ユーリが門限を破った話
※ユーリ・フレン騎士団入団前の時間軸です。二人の住まいは小説版「断罪者の系譜」を参考にしています。
「フレン!」
帝都下町。真昼の太陽の下、明るく高い声に名前を呼ばれて、僕ははっと振り向いた。
「やあ、」
そこにいた幼馴染みを見て、僕は挨拶と笑顔を返す。同じ十七歳、そして一緒にこの下町で育った幼馴染みのは、僕の友人であり、ユーリの恋人だ。はいつものように、明るい笑顔を浮かべている。
「ね、フレン。これユーリに……」
がポケットからなにかを取り出しながら放った名前に、僕は思わず顔をしかめてしまう。いけない、いけない。軽く首を横に振り、眉間のしわを伸ばした。
「もう、またユーリと喧嘩したの?」
しかし、は一瞬のしかめっ面を見逃さなかったようだ。こちらに差し出しかけた手を引っ込めて、呆れたように笑っている。
「喧嘩というかね……」
やはり幼馴染みに隠し事はできないな。僕は誤魔化すのを諦めて、に事情を話し始める。
「実は昨日ユーリが遅くまで帰ってこなくて……」
話しながらも、ついため息を吐いてしまう。
僕もユーリも、下町の孤児が集まる家に住んでいる。その家にはいくつかの大まかなルールがあり、門限もそのひとつだ。昨夜、ユーリはその門限を大幅にオーバーした。
「昨日……」
「夜勤の仕事が入ったとか、なにか用事があるなら言ってくれればいいんだけど、それもなくてね」
ユーリには頭が固いとよく言われるけれど、僕だって事情があれば怒ったりはしない。けれど昨日のユーリは事前の相談もなければ、帰宅した後にどうして帰ってこなかったのかと問いただしても『ぼーっとしていた』『別になんでもねぇ』と言うだけだった。あれで「怒るな」というほうが無理がある。
ユーリのことだ、遊び歩いていたわけではないとはわかっている。けれど、ルールはルールなのだから守ってもらわないと。
「僕たちはあの家の年長者なのに、ユーリがあの調子では子どもたちに示しがつかないよ」
どうしてユーリはいつもこうなのだろう。僕とユーリはあの家では年長者に当たる。親のいないあの家の子どもたちは、僕たちの背中を見て育っていく。子どもたちの見本となれとまでは言わないけれど、せめて子どもたちに恥ずかしくない振る舞いをしてほしい。
僕はもう一度大きくため息を吐く。そこでようやく、目の前のが真っ赤な顔でうつむいていることに気がついた。
「?」
いったいどうして? そう聞こうとして、ふと一つの考えへたどり着く。
もしかして、ユーリは昨夜のところに行って……。
「、もしかして……」
「ちゃ、ちゃんとしなきゃだめだよね。わたしもユーリに言っておくから!」
は顔を真っ赤にしたまま、目を泳がせながら早口で一気に言葉を紡ぐ。
「いや、あの……」
「わ、わたしちょっと用事あるから! またね!」
そしては全速力で市民街へつながる坂へと駆けて行く。その後ろ姿を見つめながら、僕は一人うなだれた。
昨夜、きっとユーリはの家にいたのだろう。そういえば、先ほどがポケットから取り出したのはユーリの髪紐だったような……。きっとあれはユーリの忘れ物だったのだ。
のあの赤くなった表情、恋人同士が夜遅くまで二人きり。ユーリが帰宅が遅くなったわけを言わなかった理由は……いや、だめだ、これ以上考えてはいけない。
「はあ~……」
僕はその場にしゃがみ込み、頭を抱える。
とにかく一つ言えることは、僕はとんでもなくデリカシーのない真似をしてしまったということだ。